それは、いつもと変わらない夜のはずだった。ふとした瞬間、ずっと静かだった「彼」が、じわりと存在を主張し始めた。そう、それは私の下の前歯。ずっと様子を見守ってきた古い付き合いの歯だ。

初めは、「少し違和感があるな」程度だったが、その違和感は時間とともに痛みに変わり、ついには脈を打つような痛みで私の眠りを妨げた。「これは、ただ事じゃない」。翌朝、思い切って歯医者に電話をかけ、なんとか予約を取ることができた。

診察室に座ると、先生がじっくりと私の歯を見てくれた。「膿んでますね、切開が必要です」。それは、もはや避けられない運命のような言葉だった。心の中で深呼吸し、麻酔が効いていることを願いつつ治療に臨んだが、やはり痛みがゼロになるわけではない。痛みと共に膿を出す感覚を感じながら、先生の手技に身を任せる。

治療を終えた私は、出血を気にして口をすすごうとしたが、先生は「今は控えて、そのまま飲み込んでください」と言う。自分の血を飲み込むというのもなかなか不思議な経験だが、仕方がない。家に帰り、処方された痛み止めと抗生物質を手に取りながら、治療の余韻をひしひしと感じた。

さらに、今日は午後に会食の予定がある。柔らかい食べ物を選び、歯に負担をかけないよう注意しなければならない。しかし、これも「彼」との付き合いの一環だと受け止めることにした。来週には再び歯医者に行き、経過を見てもらう予定だが、そのときには少しでも良い状態であることを願うばかりだ。

歯のトラブルは、突如としてやってくる。皆さんも、長い付き合いの「彼」や「彼女」に油断せず、何か異変があればすぐに向き合ってみてほしい。痛みと共に歯医者さんへ向かったある日の体験が、少しでも誰かのお役に立てれば幸いだ。